2023/12/ 2  スタートしたインボイス制度の再確認       

10月よりスタートしたインボイス制度について、令和5年度の税制改正にともなう改正事項を再確認しましょう。

①インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する税負担軽減措置……これは、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった場合、仕入れ税額控除の金額を、特別控除税額として計算することができるもので、この特例を適用した場合、売り上げ税額の2割が納税額となります。また、この2割特例は、一般課税、簡易課税のどちらを選択していても適用可能です。また、適用にあたっての事前の届け出も不要となっています。

②1万円未満の少額取引について一定の帳簿の保存のみで仕入れ税額控除が可能になったこと……原則として基準期間の課税売上高が1憶円以下の事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内おいて行う課税仕入れについて、その金額が税込み1万円未満であるものについては、一定の事項を記入した帳簿のみを保存することでインボイスの保存なしで、仕入れ税額控除が可能となっています。なお、税込み1万円に該当するかどうかの判断は、1回の取引の課税仕入れにかかる金額が1万円未満であるかどうか(1商品ごとの金額ではありません)で判定します。

③1万円未満の返品や値引きについて返還インボイスの交付が不要になったこと……インボイス発行事業者が国内において行った課税資産の譲渡等について、返品や値引き、割り戻しなどの売り上げに係る対価の返還等を行った場合には返還インボイスの交付義務がありますが、その金額が1万円未満の場合には、その交付義務が免除されます。これは、売買において、売り手が負担する振込手数料の処理を想定したもので、10月以降は、これまで雑費等で処理していたものを値引き等の処理で行うことになるでしょう。

2023/12/ 1 第16回 ビジネス関連書を読む 「2040年の日本」  野口悠紀雄著       

野口悠紀雄は、1940年生まれ。東京大学、エール大学卒業。 日本の著名な経済学者、経済評論家である。

この著書において、著者は、様々なデータを用いて、20年後の日本の姿を予測する。しかし、それは決して明るいものとはなっていない。

その大きな原因として、高齢化があげられる。高齢化によって労働力の減少、社会保障負担の増加が避けられないからだ。その負担が将来の日本人の生活に重くのしかかってくることになる、と著者は警告する。

高齢化が進む日本では、賃金が上昇しないとその負担は著しく重いものとなる。従って、経済成長率がきわめて重要なのであるが、OECD予測では、2020年から2030年までの平均実質成長率は0.9%である。しかし、日本の財政収支試算では、2%を超える成長率を予測し、問題の深刻さを隠蔽しているのである。

また、高齢化の進展によって要介護人口が増加することになる。それに伴い医療機関への受診者も増加するだろう。医療福祉分野の就業者は、2018年度では823万人、これは、総就業者数6580万人の12.5%である。それが2040年においては1065万人になると予測されている。これは、総就業者数5654万人の18,5%にもなり、医療福祉分野が最大の産業となるという異常な事実が予測されているのである。

著者は、この本のなかで、様々な分野において、将来に対する警鐘を鳴らしているが、特に社会保障の分野では、きわめて深刻な財源問題を予測している、しかし、そのほとんどが何の手当もされていないのが現実だという。

シニアの世代は、将来の世代に対して、耐えられないほどの負担を残そうとしていることを認識すべきである。

2023/11/13     スタートしたインボイス制度の留意点      

本年10月よりインボイス制度がスタートしました。その中でインボイス不要となる消費税処理について確認しておきましょう。

①インボイスが免除される取引……インボイスの交付が免除される取引の対象となるのは、3万円未満の公共交通機関による旅客による運送、自動販売機等による商品の販売等の取引です。この3万円に該当するかどうかは、1回の取引の税込み価格が3万円未満かどうかで判定することになります。この場合、公共交通機関とは、船舶による旅客の運送、バスによる旅客の運送、鉄道、モノレール等による旅客の運送を指します。ただし、入場料金、手回り品料金は、旅客の運送に直接的に付帯する対価に該当しないのでこの特例の対象ではありません。

②返還インボイスの交付が免除される売り上げに係る対価の返還等……これには、売り上げの返品、値引き、割り戻しが該当します。判定の単位は、1回の取引に係る税込価額が1万円以下の取引です。

③通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当等……役員または、使用人に支給する国内の出張旅費、宿泊費、日当等は通常必要と認められる範囲についてはインボイスの交付を受けなくても一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められています。

④通勤手当……事業者が通勤者に支給する通勤手当については、当該通勤者がその通勤に必要な交通機関の利用である場合は、インボイスの交付を受けなくても、帳簿等の保存のみで仕入税額控除が認められています。

2023/11/11  岩波文庫を読む 第15回 「岩波茂雄伝」 安倍能成著      

岩波茂雄は、1881年(明治14年)長野県諏訪市中洲の生まれ。明治41年、東京帝国大学哲学科を卒業し、神田高等女学校での4年間の勤務を経て、1908年(大正2年)神田神保町で古本屋を開業、その後、出版事業を開始している。

岩波が生涯をかけてめざしたのは、本の大衆化であった。昭和の初期、まだ本が高価であった時代に、人々のためになる出版とは何かをひたすら考えつづけ、だれもが手にすることができる廉価で良質な本を考案し、その結果、発案されたのが岩波文庫と岩波新書である。

関東大震災後の厳しい経済状況下で、日本出版史上に残る企画を実現したのが岩波文庫だったのである。

岩波文庫はその巻末に「読書子に寄す」として、以下の文章を掲げている。「真理は万人によって求められることを欲し芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚昧ならしめるために学芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる欲求である。岩波文庫は、この要求に応じそれに励まされて生まれた。…」

記念すべき岩波文庫の第1回の発売書目は、「新訓万葉集 上巻」「こころ」「ソクラテスの弁明・クリトン」実践理性批判」「古事記」藤村詩抄」「国富論 上巻」「にごりえ・たけくらべ」など31点であった。

2023/10/7  ビジネス関連書を読む第15回 「半導体戦争(CHIP WAR)」クリスミラー著       

半導体とは、導体と絶縁体の中間の機能を備えた物質のことを言うのであるが、コンピューターや電波を使うものはすべて、この半導体に依存している。

このように大変重要は半導体の存在であるが、この本では、地政学的に大変危ない国際環境のなかで、IT製品が作られていることが示されている。

たとえば、アップルは、iphoneのOSを動作させる超複雑なプロセッサを社内で設計してはいるが、カリフォルニア州クパチーノに本社を置くその巨大企業をもってしても、その製造は不可能なのだ。いや、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国のどの企業をもってしても不可能なのである。

現在、アップルの最先端のプロセッサ、つまり世界最先端といえる半導体は、たった一つの企業のたった一つの建物でしか作れない。その工場とは、台湾にある、台湾積体電路製造(TSMC)である。

この世界最先端の工場では、迷路のように入り組んだ微細なトランジスタ(電気的スイッチ)のパターンが刻まれている。その大きさは新型コロナウイルスの直径の半分以下、ミトコンドリアの直径の100分の1にすぎないのだ。

国際政治の形、世界経済の構造、軍事力のバランスを決定づけ、私達の暮らす世界を特徴づけてきたのは、まさに半導体なのだ、と著者は結論づけている。

特に意識することもなく使っているスマートフォンであるが、そこで使用されている半導体の歴史と、存在する様々なリスクをこの本で知ることができるだろう。



2023/10/2      スタート!インボイス        

いよいよ、本年10月1日よりインボイス(適格請求書)制度がスタートしました。

インボイス制度を採用したことにより課税事業者となった免税事業者は、来年の確定申告より消費税の申告、納付が必要になってきます。

そのインボイスですが、交付が必要になるのは10月1日以後の取引からです。9月中の取引について10月に請求する場合は、インボイスを交付する必要はありません。

一方、9月に請求して10月に納品する場合は納品書にインボイスを記載したり、登録番号を伝えて請求書と一緒に保存してもらうといった対応が必要になってきます。

インボイスを相手先に交付するにはインボイス発行事業者の登録を受ける必要がありますが、国税庁によれば、課税事業者の9割超が登録申請を済ませており、免税事業者から課税事業者となって登録申請した事業者も103万件に上っています。

インボイスには登録番号を記載する必要がありますが、登録申請の時期によっては10月1日に登録番号の通知が間に合わないケースも出てくるでしょう。

その場合は、登録番号がわかった時点でインボイスを交付するか、登録番号を後日通知して請求書と一緒に保存してもらう、またあらかじめ発行していた請求書などに替わるインボイスを交付し直すなどにより対処する必要があります。

また、このインボイスを機会に経理業務の効率化を図るとともに社内のDX化を進めることも必要となるでしょう。


2023/9/9  岩波文庫を読む 第14回「君たちはどう生きるか」 吉野源三郎著        

吉野源三郎は、(明治32年~昭和56年)昭和を代表する知識人である。明治大学教授、岩波書店常務取締役、日本ジャーナリスト協会初代議長を歴任している。また「君たちはどう生きるか」の著者としても知られている。

吉野源三郎は、大正14年、東京帝国大学部文学部哲学科を卒業後、昭和10年に山本有三の「日本少国民文庫」の編集主任に就任。その後、岩波書店に入社し、昭和13年岩波新書を創刊、また昭和21年に雑誌「世界」を創刊し、初代編集長に就任している。そしてその生涯は、一貫して反戦、平和の姿勢で貫かれていた。

この「君たちはどう生きるか」は、刊行から70年を経過した今日まで多くの人に支持され、読み継がれている名著である。最近では、映画化もされている。

コペル君とあだ名された潤一君のさまざまな行動、また叔父さんとの会話を通して、人間いかに生きるべきかを示した人生読本と言えるだろう。

この小説を通して、吉野は、自分自身の過ちを認めそのために苦しむのは、人間だけである。人間は、自分で自分の行動を決定する力を持ち、それゆえ過ちも犯すが、だからこそ過ちから立ち直ることができることを訴えている。

丸山真男は、その回想文のなかで、この小説は人生いかに生きるべきか、という倫理だけでなく、社会科学的認識とは何かという問題であり、むしろそうした社会科学的な問題と切り離せないかたちで人間のモラルが問われている点にそのユニークさがある、と述べている。

特に、これからを生きていく高校生、大学生には、是非読んでもらいたい一冊である。

2023/9/2    退職金増税について考える     

本年6月末に提出された政府税制調査会(首相の諮問機関)の中期答申の中に「退職金課税の見直しの必要性」が盛り込まれた。

実は、退職金課税の見直し案は今回初めてではなく、2017年の税制調査会ですでに今後の課題とされており、その後たびたび審議の対象となっている。

退職金への課税は、非常に優遇されている。退職一時金として受け取った場合を考えると①退職所得控除額が大きいため税負担が少ない。その計算式は、(退職一時金-退職所得控除)×1/2=退職所得となっており、退職所得控除は、勤続20年まで1年当たり40万円、21年目以降は、同70万円となっている。この計算式からも、非常に優遇されていることがわかる。

②退職所得は、分離課税となっており、他の所得と合算することなく退職所得だけで税額計算を行う。

③退職所得には、社会保険料がかからないので手取りが減らない(ただし住民税は課税される)

今回、政府は、現行の課税制度は終身雇用を前提としているものであり、若者の離職、転職の妨げとなっている。また、成長分野への円滑な労働移動を促すために退職金課税の仕組みを変える必要性を指摘している。

具体的な改正案は未定だが、見直しが検討されているのは、退職所得控除の部分である。現在の勤続20年までの40万円、21年目以降70万円部分の改正になると思われる。

退職金を老後の貴重な財産と考える退職者にとって、注視すべき改正事項となるだろう。

2023/8/7   免税事業者とインボイス    

いよいよ、本年(令和5年)10月より、インボイス制度が開始になります。この制度の開始にあたり、現在、免税事業者の方は、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)になるべきか、現在のまま、免税事業者のままで事業を続けるべきか、迷われている方も多いかと思います。(ちなみに、令和5年3月末現在で、免税事業者のなかで約50万者の方がインボイスの申請をされています。)

やはり、登録するかどうかの判断は、取引先の業種と客層によるところが大きいように思われます。卸売業や製造業など、事業間取引しか行わない業種、あるいは事業間取引がメインとなる業種については、インボイスは必要となるでしょう。また、免税事業者のままだと相手方事業者においては、仕入れ税額控除が制限されることになりますから、取引条件の見直しを要求されることも考えられますので、やはりインボイス登録は必要となるでしょう。

一方、その客層に事業者がはいる余地のない学習塾や入る余地の少ない青果店や鮮魚店などの小売り店などは、インボイスの登録は必要ないかもしれません。

ここで、免税事業者が、納税義務者になった場合の税額をシミュレーションしてみましょう。なお、令和5年度の税制改正により、免税事業者が適格請求書発行事業者となる場合は、納税額を売り上げ時に受け取る消費税額の2割にすることができる特例が3年間設けられています。

それによって計算すると、仮に売上高が770万円(税率10%の税込み)であったとすると、消費税の納付額は、14万円となります。

いずれにしても、取引先の業種や客層、また新たに発生する消費税負担を勘案し、決定する必要があるでしょう。

2023/8/5  第14回 ビジネス関連書を読む 「指導者の条件」 松下幸之助著    

松下幸之助(明治27年、和歌山県海草郡(現在の和歌山市に生まれ、平成元年に死去)。は、日本で最も有名な経営者であり、俗に「経営の神様」とも呼ばれている。一代でパナソニックホールディングスを築き上げ、他にもPHP研究所を設立して倫理教育や出版活動に進出、また松下政経塾を立ち上げ、政治家の育成にも力を注いだ。

松下は、この本の前書きの中で、「会社でも、社長次第で良くも悪くもなります。…結局一つの団体、組織、の運営がうまくいくかいかないかは、ある意味では、その指導者一人にかかっているともいえましょう。その責任はすべて指導者一人にあるといってもいいと思うのです。」と述べている。

この「指導者の条件」は、松下が、日本や中国における歴史的教訓を通して、指導者として必要な心構えを、百二の事例としてまとめている。

例えば、「指導者は、部下の自主性を引き出し生かすことが大切である。」「指導者は、最後の最後まで志を失ってはならない。」「指導者は、自分の力より人の力を使うことが大切である。」「指導者は、同じことでも相手により説き方を変えることが大事である。」

松下はこう述べる「国と言わず、団体と言わず、企業と言わず、指導者が、一つの理念なり使命感、信念をもって運営していくならば、おおむね指導者の思い通りに進めていけるものだと思います。指導者が正しい指導理念、正しい使命感、正しい信念を持っていれば、指導者の思うままにその団体は動き、成果も上がり、発展も生まれるでしょう。だから指導者の責任は極めて重いわけで、指導者は、常に、自分の指導理念に誤りがないか、正しい使命感、信念を持っているか、自分のやり方は適切であるかを自問自答し、また他の人にも問いたずねながら、検討を怠ってはならないと思うのです。」

2023/7/7  岩波文庫を読む 第13回「長谷川如是閑評論集」飯田泰三他編     

長谷川如是閑(本名萬次郎)は、1875年(明治8年)生まれ。(昭和44年93歳没)明治、大正、昭和と三代にわたり、新聞論説、評論、小説、紀行などを著したジャーナリストであり、大正デモクラシー期を代表する論客である。

如是閑は、東京法学院(現中央大学)卒業後、日本新聞社を経て大阪朝日新聞社に入社している。大正元年頃から、朝日新聞の名物コラム「天声人語」を担当している。また如是閑は、吉野作造、大山郁夫らとともに、大正から昭和初期にかけて、進歩的、かつ反権力的な論陣を張り、特にファシズム初期の段階で、他者に先駆けてファシズム批判を行っている。

この「長谷川如是閑評論集」は、彼の膨大な著作の中から選ばれた精選集である。軽妙なスタイルによる文明批判から本格論文に近い国家批判や社会批判、また中国論、日本文化論、ほかにその時々の事件に触れて著された時論的著作、など様々な文章が集められている。

ただし、明治、大正期特有の事件であったり思想を中心に評論しているため、現代において読む場合、多少の読みづらさがあるだろう。

本書に納められている「如是閑語」からいくつか紹介しよう。

〇男子は結婚によって女子の賢を知り、女子は結婚によって男子の愚を知る。

〇存在に理由なし。性格に設計なし。人生に脚本なし。

〇戦争の前は憤怒なり。戦争の中は悲惨なり。戦争の後は滑稽なり。

〇外交官と幽霊は微笑をもって敵を威嚇す。

2023/7/6   「タワーマンション節税」改正の影響     

令和4年、いわゆる「タワマン節税訴訟」における国側の勝訴を受け、これまで実務界で問題視されてきた相続税におけるマンションの評価方法について、「適正化の検討」が令和5年度税制改正大綱に記載されました。それを受けて、令和5年に有識者会議が数回行われ、新たな算定ルールの方針が示されました。(2024年1月1日以降の適用見込み)

相続税法は、財産の評価は「時価」によると規定していますが、現金や上場株式に比べて土地や建物の評価は難しく、国税庁は、その評価方法を財産評価通達で規定しています。建物については、固定資産税評価額を使用し、土地につては、一般的には、路線価を使って計算します。

今回の検討では、現在、実勢価格の4割にとどまっている高層マンションの評価額を6割以上に引き上げる方針です。

たとえば、現行の評価方法で行うと、東京都内の築9年の43階建て高層マンションで23階の場合、約1憶1900万円の実勢価格に対して評価額は、3720万円となります。

それが、新ルールにより評価額を算出すれば、約7140万円に増加することになります。

そもそも路線価は公示価格の8割程度であり、さらにマンションの場合、全体の敷地面積を個数で割るため、個数の多い高層マンションでは1戸当たりの土地の持ち分が小さくなり、そのため評価額が実勢価格から大きく離れていました。今回の改正は、公平性の確保ともいえます。

ただし、今回の改正は、高層マンション全体の評価の見直しですから、富裕層に限らず、これまで相続税を納める必要がなかったマンション所有の中間層の人達にもその影響が及ぶ可能性があります。

従って、この「タワマン節税」の改正は、富裕層だけの問題ではないことになるのです。

2023/6/10  贈与税について(令和5年度改正を踏まえて)      

最初に、贈与税における暦年課税と相続時精算課税の課税方法について整理しておこう。

暦年課税とは、暦年ごと(1月1日から12月31日までの期間)に、贈与額に対して基礎控除110万円を控除した後、累進税率を適用して贈与税を計算する仕組みの制度です。また、贈与者の相続時には死亡前7年以内(今回の改正により3年から7年に改正)の贈与額を贈与者の相続財産に加算して相続税を計算することとなっています。

相続時精算課税制度とは、60歳以上の両親(祖父母)から18歳以上の子供や孫に贈与をしたときに、この制度を適用した場合、累積贈与額2500万円までは課税されず、2500万円を超えた部分に20%の税率で課税が行われる制度です。そして、この精算課税制度により贈与した特定贈与者の相続が発生した場合には、この制度を利用して累積した贈与額を相続財産に加算して相続税の計算をしなければなりません。また、精算課税制度を選択した場合、撤回はできず、暦年課税に移行することもできません。

令和5年度の税制改正においては次の点が改正されました。相続時精算課税について、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除のほかに、別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとなりました。(令和6年1月より適用)、また暦年課税における贈与の相続時における加算期間が3年から7年に延長するほか、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額(100万円)については、相続財産に加算しないこととされました。

今回の改正を踏まえ、どの制度を利用すべきか再検討の必要がありますし、また、贈与を検討されている方は、早めの贈与に着手すべきでしょう。

2023/6/8  ビジネス関連書を読む 第13回「ビジョナリーカンパニー」J・C・コリンズ著      

ビジョナリーカンパニー」の初版は、1994年10月、アメリカにて発行されている。日本での発行は、翌年1995年。以来ベストセラーとなり、現在に至るまで、幅広い支持を得ている。

「ビジョナリーカンパニー」とは何か。それは、ビジョンを持っている企業、未来志向の企業、そして先見的な企業であり、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けている企業を指している。

著者コリンズは、数多くの企業データを整理、検証し、ビジョナリーカンパニーとして、18社を選出している。そして、以下の点に着目し、各社の設立から現在までの歴史を詳しく調べている。それは①これらの企業がどのように始まったのか②どのように発展してきたのか③資金難の零細企業という障害をいかに乗り超えたのか④新興企業から確立した企業へと、どのように発展してきたのか⑤創業者から第二世代の経営陣への世代交代をどのように進めたのか⑥戦争や恐慌などの歴史的出来事にどのように対応してきたのか⑦革命的新技術の開発にどのように対応したのか、である。

そして、この調査から見えてきたものは、これらのビジョナリーカンパニーには共通するものがあり、それは「基本理念を維持し、進歩を促す」という原則であるという。

ビジョナリーカンパニーとしてソニーを選出しているが、ソニーの盛田昭夫は、次のような、ソニースピリットを作成している。

「ソニーは開拓者。その窓は、いつも未知の世界に向かって開かれている。人のやらない仕事、困難であるがために人が避けて通る仕事に、ソニーは勇敢に取り組み、それを企業化していく。…開拓者ソニーは、限りなく人を生かし、人を信じ、その能力を絶えず開拓して前進してゆくことを、ただ一つの生命としているのである。」

企業における時代を超える生存の原則とは何か、その一つの解答が、この本に示されている、と言えるだろう。

2023/5/19   公的年金受け取りの繰り下げは得策か     

本来65歳から受け取る公的年金の受給開始を遅らせることを「年金の繰り下げ」というが、令和4年4月より、この繰り下げが70歳から75歳まで繰り下げ可能となった。

そこで、この繰り下げが得策かどうかを、検討してみよう。

モデルケースで、65歳での年金の額面受取200万円を70歳まで繰り下げると284万円(42%増)受け取れることになる。また75歳まで繰り下げると368万円(84%増)が受け取れる。

ただし、実質手取り額をみると65歳受け取り時が約185万円であったのが70歳で受け取ると約243万円(31%増)となり、75歳で受け取ると約315万円(67%増)ということになり,額面ほどの増加ではないことがわかる。これは、収入が増えると社会保険料や税金が増えるためで、繰り下げ受給で受け取る年金額が額面ほど増えないことに留意すべきだろう。

また受給に対する損益分岐点(受給総額が同じになる点)は、額面ベースでは70歳まで繰り下げた場合は82歳で、75歳での開始の場合は、87歳ということになる。

さらに、手取りベースで考えると70歳の場合は85歳、75歳の受給開始の場合は89歳まで存命でないと受給総額の面でいうと損ということになる。

受給開始年齢の選択については、上記の試算を参考に、対象者の健康状態や、現役で仕事に従事しているか、など様々な要因に留意し決定すべきだろう。



2023/5/10   岩波文庫を読む 第12回 「キルプの軍団」 大江健三郎著    

大江健三郎は、1935年(昭和10年)愛媛県喜多郡大瀬村(現内子町)に生まれる。東京大学文学部卒。学生作家としてデビューし、大学在学中の1958年、短編「飼育」により、当時最年少の23歳で芥川賞を受賞している。また1994年、日本文学史上2人目のノーベル文学賞受賞者となっている。本年(令和5年)3月、老衰のため死去。

「キルプの軍団」は、1988年に刊行された長編小説である。

オーちゃんと呼ばれている主人公の「僕」は、部活のオリエンテーリングに励む理系志望の高校生である。父の故郷の松山で暴力犯係をやっているディケンズ好きの忠叔父さんが、仕事で上京したのしたので、オーちゃんは英語の勉強として叔父さんを教師にしてディケンズの「骨董屋」を原書で読み始めるうちに、ある事件に巻き込まれていく……。

大江は、あとがきの中で「主人公の高校生と同様、さらにそれ以上に書き手の私にとって重要であったのが「罪のゆるし」という主題でした」と記している。

この作品で政治党派の対立を通して描かれた「罪のゆるし」、Forgiveness of sinという主題は、広島、長崎の原爆被爆者の二世たちの間に生じた深刻な抗争を知ったことから発している、と大江は、別の書物のあとがきで述べている。

キリスト教徒ではない大江にとって「罪のゆるし」とは何か、また「祈り」とは何か、大江なりの模索が作品を通して感じられる。

評論家の小谷野敦は、本作品を絶賛し、1970年以降の文学界は、大江1人勝ちの奇観を呈していると評している。


2023/4/17   相続の現場から    

高齢化が進む日本において、相続の現状はどうなっているのだろうか、様々な統計数字を参考にしながらまとめてみよう。

2021年(令和3年)の死亡者数は143万人であり、その後も増加傾向となることが予想されている。第一次ベビーゲームの時に生まれた「団塊の世代」は2025年には75歳を迎えることになる。国立社会保障、人口問題研究所の推計では、死亡数は2039年(令和21年)に167万人でピークを迎え、その後もしばらくの間150万人前後の水準が続くと予想している。

相続税の申告状況はどうだろうか。令和3年分の死亡者数は1,439,856人であり、このうち相続税の申告書が提出されたのは、134,275人であった。

つまり、死亡者数11人に1人の割合で相続税の申告書が提出されたことになる。(東京都内では6人に1人)

また相続税の申告を行った人の80歳以上の割合は、ここ30年で38.9%から71.6%と増加しており、被相続人のみならず相続人の高齢化も進んでいることが類推される。

次に相続税申告における合計課税価格(相続財産の価格)は1憶円以下の人が全体の60.8%を占め、1憶円から2憶円以下の人の割合25.8%を加えると全体の86.8%を占めることになる。(なお、合計課税価格10億円以上の人は全体の0.8%であるが、納付税額は全体の28.4%を占めている。)

いずれにしても、相続税発生の有無に関わらず、相続関連の検討事項について、早めの準備が必要だろう。


2023/4/11  ビジネス関連書を読む第12回 「砂糖の世界史」川北 稔著 岩波ジュニア新書    

岩波ジュニア新書は、1979年に創刊された中高生を対象に書かれた岩波書店発行の新書である。内容は、国語、社会、数学、理科などの学習入門書のほか、進路、趣味、芸術などのジャンルがあるが、中高生にとどまらず、大学生、社会人が読んでも興味深い内容の著作が多い。

この「砂糖の世界史」は、1996年に出版され、現在も読み継がれているロングセラーである。

世界中のどこでも、誰にでも好まれ売れている商品を「世界商品」というが、砂糖は、茶や綿織物と並ぶ「世界商品」である。

この砂糖にスポットライトをあて、大航海時代、植民地、プランテーション、奴隷制度、三角貿易などの近代史の流れをダイナミックに描いている。

ある意味で、「世界商品」を独占することができれば巨大な利益が得られるため、16世紀以降、この世界商品をどの国が独占できるか、という闘争の歴史が世界史を動かしてきたとも言えるだろう。

18世紀、イギリス商人たちは、奴隷貿易で稼ぎ、奴隷の作った砂糖で稼ぎ、各植民地への製品の輸出でも稼いだ。その結果、イギリスは、この世界商品である砂糖を支配することにより豊かな国となったのである。

著者は、歴史を学ぶことは、年代や事件や人名を覚えこむことではなく、今の生きているこの世界が、どのようにして今日の姿になったのかを考えてみることだ、と述べている。


2023/3/23   無申告のペナルティについて  

令和5年度の税制改正において「税に対する公平感を大きく損なうような事例が生じている」として、無申告に対する厳罰化が盛り込まれました。

本来納めるべき税額を納めなかったときに課されるペナルティには、大きく分けて「過少申告加算税」と「無申告加算税」の2種類があります。

「過少申告加算税」は、申告はしたものの税務処理のミス等により本来納めるべき税額に不足が生じた場合が該当します。一方「無申告加算税」とは、そもそも申告自体がなされず税金も納められていないケースが該当します。

「過少申告加算税」の場合は、新たに納めることになった税額の10%相当額ですが、「無申告加算税」の税率はどうなっているのでしょう。

基本的には(更正予知後)税額の50万円までまでの部分については15%、50万円を超える部分については20%の税率を掛けた金額が税額となります。なお、税務調査の前、自主的に申告をした場合は、一律5%の税率です、

また、無申告が意図的であるなど一定の事由に該当する場合は、重加算税として40%の税率が課されます。

さらに令和5年の税制改正により、納付すべき税額が300万円を超える部分については、30%の税率が掛けられることとなりました。

また、無申告加算税のほかに一定の延滞税も課されることになります。

無申告は、相当のペナルティになるため、申告は、期限内に確実に行うべきでしょう。

2023/3/18  岩波文庫を読む 第11回 「サロメ」 オスカーワイルド著  

オスカーワイルド(1854年~1900年)は、19世紀の作家、詩人、劇作家である。その作風は耽美的であり、また退廃的である。多彩な文筆活動を行ったが、男色を咎められて収監され、出獄後、失意のうちに没している。「サロメ」が書かれたのは、1891年。フランス語版が出たのは2年後の1893年である。英語版は、1894年に出されている。

この「サロメ」は、新約聖書マタイの福音書第14章3節以下、およびマルコの福音書第6章17節以下の記述を下敷きに創作されたものである。ただし、聖書中の洗礼者ヨハネはヨカナーンとなっており、イエスの誕生を恐れてベツレヘムの幼児虐殺を行ったヘロデ王は王エロドとして登場する。

ユダヤの王エロドは、自分の兄である前王を殺し妃を奪い今の座に就いた。しかし、妃の娘である王女サロメに魅せられてしまう。預言者ヨカナーンは、王や妃を批判し牢に閉じ込められていた。サロメは、牢に閉じ込められたヨカナーンを見て、恋をしてしまう。しかし、愛を拒まれたサロメは、復讐を誓う。王エロドが、サロメに踊りを要求し、その褒美になんでも好きなものを与えると約束するとサロメはヨカナーンの首を所望するのだった…。

この「サロメ」は、内容の背徳性から禁止令が出て1931年まで上演できなかった。日本で最初にサロメを演じたのは松井須磨子である。大正2年12月、島村抱月の芸術座により帝国劇場にて上演されている。また昭和35年、昭和46年には、三島由紀夫の演出により(昭和46年は、三島の死により和久田誠男)上演されている。

日本で初めて「サロメ」を翻訳したのは森鴎外で、その後多くに翻訳者により日本語訳が出版されている。戯曲として、これほど多く、また長く読まれている作品は珍しいといえるだろう。

2023/2/9   確定申告の必要な方を確認しよう 

確定申告期にあたり、確定申告の必要な方を確認しておきましょう。

①給与所得者

 ⑴給与の収入金額が2,000万円を超える方。

 ⑵給与を1か所から受けていて、かつ副業等で給与以外の収入があり、その副業等の所得(収  入ー経費)が20万円を超える方。

 ⑶給与を2か所以上から受けている方は、原則、確定申告が必要になります。

 ⑷同族会社の役員や親族の方で、その同族会社からの給与のほかに、その会社から家賃等を受け取っている方、などです。

②年金受給者

 公的年金による収入が400万円以下で源泉徴収されている方は、確定申告の必要はありませんが、公的年金以外の副業等の所得が、20万円を超える場合は、確定申告が必要になります。

  なお、副業等の所得が20万円以下の場合は、所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は必要になります。

③個人事業者

 個人事業者の方で年間の所得金額が48万円を超える方は、確定申告をする必要があります。

 ただし、個人事業者の場合は、確定申告書が様々な場合に必要となることがありますので、納める税金がないとしても、 申告書の提出をお勧めします。

2023/2/4  ビジネス関連書を読む 第11回 「現代経済学の直観的方法」 長沼伸一郎著  

長沼伸一郎は、1961年生まれ。組織には属さない在野の物理学者である。彼の著書である「物理数学の直観的方法」で大変話題になったことでも知られている。

「現代経済学の直観的方法」は、経済学の予備知識のない読者でも、経済学理論の大筋がマスターできるような内容の書物になっている。その謳い文句にたがわず、大変わかりやすく、また面白い内容の本である。

第一章、資本主義はなぜ止まれないのか。第二章、農業経済はなぜ敗退するのか。第三章インフレとデフレのメカニズム、など身近な問題として認識しながら、そのメカニズムはよくわかっていないのではないだろうか。そのメカニズムを図解を交えてわかりやすく解説してくれる。

たとえば、著者は経済のメカニズムについてこう解説する。「経済というものは、石油ポンプが自分のくみ上げた燃料で動いているようなもので、何らかの形で縮小均衡に陥ってしまった場合、外から一度バケツで資金を注ぎ込んでやらないと、自力では拡大が難しい。そのためのバケツの役割は、政府の公共投資が果たすのがよい。そうやってバケツで注ぎ込まれた資金は「乗数効果」となって最初の何倍もの最終的効果を伴って経済拡大に寄与することとなる。」

ただしこのケインズ流の経済プログラムは、「大きな政府」を要求する上、その財源として、しばしば国債発行に頼るため、財政赤字とインフレの温床になりやすい、と述べている。

また著者は、資本主義がその発展速度をどんどん早くしていかなければいけないという強烈な圧力が宿命としてその根本部分に組み込まれていることも指摘する。

経済に興味のある人にとっては、一読に値する経済書であるといえよう。

2023/1/13    相続の手続きを確認しよう  

相続は、身内の死という大きな動揺のなかで行われる。必要な手続きがたくさんあるので、その準備は、早いほうが良いことになる。

相続の手続きの流れを簡単に確認しておこう。例えば、親などの死により相続が発生すると、

①まず遺言書の有無を確認することになる。遺言書がない場合は、相続人の間で、財産(負債も含めて)の分け方について話し合うことになる。

②財産の洗い出しを行う。(この場合の財産の評価は、相続税評価で行うので、不動産の場合、実際の売買時価とは異なる。)

③遺言書がない場合、相続人の間で財産の分割を確定し、遺産分割協議書を作成する。

④相続税が発生するようなら相続開始の日から10ケ月以内に税務署に申告書を提出し、算出された税額を納付しなければならない。

注意すべきは、亡くなる直前に生前贈与していた相続開始前3年以内の贈与は、相続財産に加算されることである。ただし、23年度の税制改正により、その持ち戻し期間が3年から7年へ改正されているので注意したい。(24年1月より適用)

いずれにしても、相続の対策は、遺言書の作成や、生前贈与の実施など、早い時期から開始する必要があるだろう。

2023/1/5   岩波文庫を読む 第10回 「自省録」マルクス・アウレーリウス著

ローマ帝国最後の五賢帝であるマルクス・アウレーリウス・アントーニーヌス(以下マルクス)は、西暦121年4月にローマに生まれている。

ローマ皇帝として多忙な職務の傍ら、哲学的な思索を好み、後期ストア哲学を代表する哲学者でもあった。この「自省録」は、、彼の思想を知ることができる唯一の書である。

この書物の構成は、一応12巻に分かれているが、よく整理されているとはいえず、また本人以外の者が読むことを想定して書かれていないため、重複も多い。

ローマ帝国に翳りが見えはじめたマルクスの皇帝時代、国防のために長い年月を陣営で過ごさざるをえなかったマルクス帝は、ごく私的な一冊の手記を残した。そこには、統治者としての孤独を抱えながら、哲学者として苦悩する人間を垣間見ることができる。一方で、マルクスは、彼が皇帝として、なまなましい現実との対決に火花を散らす身であったからこそ、その思想の力と躍動が生まれたといえるのかもしれない。

「自省録」の中からいくつかの言葉を拾ってみよう。

「人生は戦いであり、旅の宿りであり、名声は忘却に過ぎない。」

「行動においては、杜撰になるな。会話においては、混乱するな、思想においては迷うな。人生においては、余裕を失うな。」

「神々を畏れ、人を助けよ。人生は短い。地上生活の唯一の収穫は、敬虔な態度と社会を益する行動である。」